女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
ゴシップと影響力。
そして、ゴシップ大作戦が始まった。
創作居酒屋で桑谷さんと考えた通りに、私はデパ地下のパートさんたちを中心に、桑谷さんは百貨店の社員さんを中心に、とにかく『守口と小林さんが言い合いをしているところを見た』だとか、『彼女は熱が冷めてきているらしい』などと人との会話に組み込みまくった。
ハッピーな話よりは不幸な話のほうが面白いに決まっている。それに誰かの命が掛かっているわけでもないこの手の話は、大した罪悪感もないからか瞬く間に広がっていった。
作戦開始してからの斎からの借金返済はなく、どうやらお金をヤツに預ける者がいなくなってきているらしい、と判った。
ただ単に、繁忙期で皆それどころじゃなくなった、ってのも勿論あるかもしれない。百貨店の社員さんは、イベントが変わるごとに深夜まで残業していると桑谷さんも言っていたし。
だけども確実に、守口&小林カップルの不仲説は百貨店中に蔓延しているようだ。私はそれを注意深く眺めながら更に話を煽っていた。
こちらもかなり忙しくなって中々会えなくなった桑谷さんとは、主に夜、メールで報告し合っている。最近ではとりあえず携帯を開くと桑谷さんからのメールがないかと探すようになった。
私は、孤独じゃなくなっていた。
8月に入った。
百貨店はまさしく全館あげての繁忙期。
夏のアイテムからセール、中元や帰省土産、暑い時期は人も亡くなるので法事も増えるから、お供えものや粗供養まで、毎日は戦争のように過ぎていく。