女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 だから斎は――――――

 1階に着き、店員通路を走る。バックヤードは今日も込み合っていて、いたるところで声が飛んでいた。

 ―――――焦ったのだ。彼女との、結婚を。

 斎は女を手に入れる為ならムード操作くらいしただろうと思う。慣れているはずだし、しかもきっと楽しんでやっただろう。

 それが出来ないほどに、焦っていたのだろう。そして小林さんを見くびっていた。まさか年若い彼女の気持ちが自分から離れているとは思いもしなかったに違いない。


 売り場への出入り口前で止まって、呼吸を整える。

 百貨店は毎日混雑している。お客様にぶつかったりしたら大変だ。荒い息を整えて、制服の乱れを直し、笑顔を貼り付けてドアを開けた。

 一礼。お客様を避けながらマーケットの青果売り場を通り過ぎて洋菓子コーナーへ歩いていく。

 ちらりと鮮魚売り場をみたけれど、桑谷さんの姿はなかった。ここ2日は連絡がないから、もしかしたら今日は休みなのかもしれない。彼ももう随分と連日勤務が続いているはずだった。


 自分の売り場に入る前に斎の姿を確認した。

 いつもと変わらない笑顔・・・いえ、やっぱり違う。毎度のキラキラオーラが出てないと思ってはいたけど、疲れだろうと思っていた。でもさっき、理由がわかった。


 女に振られたのね、あんた。



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