女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
ラヴァーズ・キス
ため息をついて歩き出す。夏の夕方で、6時すぎでもまだまだ明るく、風も熱くて街は人で溢れていた。
百貨店から連絡通路で繋がっている駅まで歩いていると、後ろから人が近づき、いきなり手を握られたから驚いて振りほどいた。
「・・・・・ごめん、驚いたよな、そりゃ」
桑谷さんが立っていた。
周りを歩いていた人たちが、何事かと振り返っていく。私は慌てて謝った。
「・・す、すみません、びっくりして・・・つい・・」
ぺこぺこと頭を下げたら、いや、俺が悪かったからと桑谷さんが笑った。
「そろそろ出てくるかと思って待ってたんだ。そしたら君が気付かずに行っちゃったから、つい手を取ってしまった」
人の流れに乗って歩き出すと、桑谷さんがそう言った。そして私を見下ろして聞く。
「手、繋いだら、暑い?」
え、繋ぐの?私は前を向いたままで目を瞬いた。
・・・・・恋人ではないんですが・・・。と思った。でも言わなかった。黙ってアクセサリーも何もつけてない手を差し出す。
それをするりと手を握って、桑谷さんは前を見て歩き出す。
何と、ドキドキした。