女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
「そうか、連勤だったんですよね。疲れは取れました?」
彼は電車のつり革に捕まって天井を見上げる。うーん、そうだな、と呟いてから答えた。
「まあ寝たは寝たから疲れが取れたとは言えるか。でも、人間って寝溜め出来ないってことがよく判った。寝すぎて今度は頭が痛くて・・・」
思わず笑ってしまった。
「桑谷さん、それ、年ですよ」
彼はむっとした顔でぷいと横を向いた。子供みたいだった。つい、あははははと笑いがもれてしまう。私の前に座った中年の女性が、ちらりと顔を上げて私を見たのが判った。
私の部屋の最寄り駅に電車が入っていき、笑ったまま降りる。
「・・・俺も行っていいの?」
後ろで聞く声に振り返った。そんなこと聞かれると思ってなくて、ビックリした。
「あれ?部屋には入らないつもりだったんですか?」
それを聞いて嬉しそうにする顔を見ていたら、意地悪がしたくなってくる。
「――――――そうですか、じゃあ、今日はこれで。送っていただいて、どうもありが――――」
大きな手の平が私の口に添えられた。
「行くってば。苛めんなよ」
彼は悔しそうな顔をしている。私が口角を上げてにやりと笑って見せたら、苦笑していた。