女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
改札を出て駅前を歩く。
隣を歩く桑谷さんをやたらと意識して、もしかしたら歩き方が変だったかもしれない。
・・・・ああああ~・・・・ヤバイ。うずうずしてきた・・・。全く、私は飲んだくれたおっさんかよ、と心の中で呟き、彼にばれないように深呼吸をする。
落ち着け、落ち着くのよ、まり!
ご飯を食べて、百貨店と作戦の話をする。そうよ、今日はそれが目的。桑谷さんとご飯を食べて、百貨店と作戦の話を、する。口の中でぶつぶつと繰り返した。
それなのに。
ホルモンの方が、理性を凌駕した。
鍵を開けて、玄関に入ったところで我慢が吹き飛んだ。
繋いだ手の熱さがそのまま私の体全身を駆け上って脳みそを支配したみたいだった。パッと手を離して彼に向き直る。
「え」
驚いて声を漏らす彼の唇目掛けて、私は背伸びをする。ぐぐーっと伸び上がって、目を閉じた。
閉めたばかりのドアに彼を押し付けて長い長いキスをした。彼の両腕を押し付けて、寄りかかって体重を預けて。
時間をかけて好きなように彼の唇と舌を味わい、ゆっくりと離して目を開けたら、桑谷さんは瞳を細めて私をじっと見ていた。体の力を抜いて、ただ立っている。抵抗もしなければ、抱きしめようともせずに、完全に受身だった。