女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 私は荒い息をしながら、ふふふと笑う。

 嬉しかった。

 体中痛くてベタベタしていて、唇は間違いなく腫れ上がっているだろうし、温度の上がりすぎた玄関先で倒れそうな眩暈を感じていたけれど、全身を満たすのは、強烈な喜びだった。

「痛かった?」

 桑谷さんが私を下ろしてそう聞く。二人とも汗だくでヨロヨロだった。凄い場所で、凄い激しい運動しちゃったな、そう言って彼は苦笑する。

「大丈夫、です」

 ちょっと嘘だけど。でもだって、あなた謝らないって言ったじゃない、私はそう心の中で呟いて、重たい体を引き摺って居間へと入って行く。

 
 それぞれがシャワーを浴びて綺麗になり、クーラーの空気に冷やされて正気に戻ったあと、照れながら玄関を片付けて、足に力が入らないまま台所でご飯の支度をした。

 そして何とか笑いながら二人で食べて、少しだけお酒も飲んで、また腕枕で眠りについた。

 幸福だった。

 私をとりまく世界は淡いピンク一色で、斎のことも、小林さんのことも、頭から消していた。


 翌朝起きたら、もう桑谷さんは居なかった。

 テーブルの上のメモ帳に、『仕事に行ってきます。今日はゆっくり休んで』と書置きを見つける。

 私はそれを手を伸ばして破りとって、手帳に挟んだ。

 寝転んだままで、部屋の天井を見上げる。


 彼は、私の大事な人になったんだ―――――――――



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