女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 皮肉な笑みではなく、接客用の華やかな笑顔に切り替える。二人でにこにこと小さな声で話していた。周りの店のパートさんたちがこっちをみているのを体中で感じていた。

 斎も気付いているに違いない。笑顔を崩さないままで言った。

「まあ、いいか。――――――相談があるんだ。今晩、ご飯一緒できないか?」

「・・・・出来ないわ。私は相談なんてないから」

 ヤツは苦笑した。鼻を人差し指で軽くこすって、ため息をついた。

 私は今日出勤のはずの桑谷さんをすごく意識した。

・・・どうか、気付いていますように。斎がここで私と話していることに。鮮魚売り場を振り返りたい気持ちを懸命に抑えた。

 カウンターの内側でぐっと拳を握り締める。

 彼が売り場から気がついて、見てくれてますように。とりあえず、私はこの場を何とか乗り切って―――――――

「判った。正直に言うと、お金が用意できたんだ。ただ残り121万をここでぽんと渡すわけにはやっぱりいかない。それに、桑谷さんのことで話したいこともあるし」

 更に声を潜めた斎の言葉に引っかかった。

 ・・・・桑谷さんのことで、って何よ。

 動揺を隠すには無表情が一番であると、長年の派遣生活でみにつけていた私はそれに返事をしなかった。


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