女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
それにお金が用意できた?一体どうやって?
しかししかし、好奇心は災いのもとって不思議の国のアリスも言ってたし、餌であることは判りきっている。釣られてはならない。
極めて常識的なことだけに集中しよう。
私は淡々とした声で斎に言う。
「41万」
「あ?」
「残りは41万よ。最初に50万返した時もあったんだから、今更ここで返せないってことないでしょうが。いつものように封筒に入れてくれたらいいわ」
斎が笑顔を消してぽかんとした顔をする。まさかそう返されるとは思ってなかったのだろう。だけどすぐに一瞬見せたそのマヌケな顔をパッと消して、ヤツは肩をすくめた。
「今は持ってないんだ。仕事から上がったら銀行に行こうと思ってた。だからそのまま一緒に飯でも―――――――」
「私の口座番号教えるわ。振り込んでくれたらいいのよ」
私はヤツの言葉に被せて言ってやる。
「・・・俺と少し一緒にいるのがそんなに嫌か?桑谷さんの話は聞きたくないのか?」
少し、斎の表情に苛立ちが見えた。頭の中で計算をする音が聞こえるようだった。
「聞きたくないわ。――――――あのね、斎」
私は心の中でケラケラと笑う。だけど表面上はため息をついて、疲れてうんざりした顔をしてみせた。
「私が桑谷さんと付き合っているなんて、一体誰に聞いたの?先日はご飯に行って、確かに誘われたけど私は断ったし、彼は百貨店の社員さんでしょう、話す機会もほとんどないのよ」