女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 生ぬるい風が頬をなでる。

 階段を上りきった所で、斎が何か呟いたのを聞いた。

「―――――何か言った?」

 くるりと振り向くと、少し離れたところで斎が微笑んでいた。

「・・・・・いや、ごめんなって」

 周囲はすっかり暗くなって、神社にある二つの街灯だけでは良くは見えなかったけど、とても綺麗ないつものあの笑顔なんだろうな、と思った。

 彼の、あの美しい二重の瞳を柔らかく細めた、素晴らしい笑顔。

 私は少し笑った。

「謝罪はさっき聞いたわよ」

 私の返事に斎がまた笑った気配がした。ヤツは肩にかけていた鞄を持ち替えて下に降ろす。


 そして、フ、と息を吐いた。


< 196 / 274 >

この作品をシェア

pagetop