女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
「・・・地獄に落ちろ、バカ男」
私の呟きに、斎はふ、と鼻で笑った。もはや美男子の面影はどこにもなく、すごい憎悪を体中から発散させていた。
「お前が、先にいけ。バカ女」
ナイフを掴んだ右手をゆらゆらと揺らしてみせる。
全部、このためだったのだ。
お金を返すっていうのも、あの電車の中での突然の謝罪も。
私から警戒心を失くすために必要だったから、しただけなんだ。
そしてまんまと私はほだされ、夕焼けに切なさまで覚えたせいで、今こんなことになっている。
部屋には入れないつもりだと判ったから、ここですることにしたんだ、きっと。誰も通らない暗闇の多い神社で。
丁度いい、ここでやってしまおうって。
・・・・全く、死に掛けてもバカなのは治ってないじゃん、私ったら!
「・・・詐欺罪の上に殺人罪まで欲しいってわけね?」
私の言葉にニヤニヤと笑って、斎はまたナイフを揺らす。
「・・・見つからなけりゃ、殺人にはならないさ。お前と俺は一緒に消えるんだ。皆そう思うさ。二人で一緒に逃げたんだってな」
それは・・・・脳みその足りないお前が考えたことだろうが!
私は忙しく考える。どうにか・・・どうにか逃げられないだろうか。声を出したところであまり意味はないだろう。ここはちょっとした高台で下は国道なのだ。車の往来も激しくて、音が大きくて私の声など通行人には聞こえないに違いない。