女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
退院の許可が出ましたと担当の医者が言った。
同じ年くらいだろうと思う、目元のスッキリした整った顔の主治医は、疲れた顔をして私を見た。私は彼の前の椅子に座りながら、出来るだけ無表情でいようと決心していた。
「昼には帰ってもいいです。ただし」
医者はカルテを机において、私に向き直る。
「小川さん、話してもらえませんか、本当に事件ではないのですか?」
小川まりは私の名前だ。医者のカルテには、睡眠薬の飲みすぎで自殺未遂と書かれているはず。
病院で目が覚めてから、医者や看護師に何度も救急で運び込まれた詳細を聞かれたが、私はその全てに不眠症で常用していた睡眠薬を誤って飲みすぎたんだと答えた。
目の前の、疲れた美形の医者はそうは信じてないみたいだけど。
「いつもより、薬を多めに飲んでしまったんです」
声には感情を一切こめずに、私はまたそう答える。
ボールペンでこめかみをかいて医者はため息をついた。
「救急の電話の声は男性だったそうですが、あなたの入院期間中、一度も、どなたのお見舞いもなかった。誰が救急車を呼んだんですか?その人はどうして一度もこないんですか?」
「・・・・友達です。一緒に居たので、様子がおかしくなった私をみて呼んでくれたのでしょう」
また同じ質問だ。医者もいつもと同じように、うんざりした顔をしていた。