女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 私の前で斎はたらたらと苦情を続けて言っている。

「・・・全く、あの時救急車なんて呼ばなきゃよかったぜ。そしたらお前は勝手にあの世に行って、こんな事にもならなかったのになあ~。金ではなくてお前の始末を先にするべきだったよな」

 笑顔を消して、首を傾けてこっちを見ている。大きく見開いたあの瞳には、何もうつってないんじゃないだろうか。

 斎からは、人間らしさを微塵も感じなかった。

 ただ、そこには殺意だけが。

 寒気が背中を這い上がる。

「・・・由香里ともダメになった・・・。それもお前が何かしたんだろう?あれやこれやとご苦労さんだったよな、ほんと。でももういいや。お前を片付けて、俺は消える。どこででも生きてやるさ。でも、今回は失敗せずに、ちゃんとしていかなきゃな」

 私は抱えていた自分の鞄を投げ捨てて、両足を開いて立ち、腰を落とした。

「おお?・・・何考えてんだ、まり。俺にかなうと思ってんの?」

 ニヤニヤを更に大きくして、斎が顎をあげて私を見下ろす。

「俺に、お前が」

 揺らしていたナイフをしっかりと握り締めたのが判った。

 ――――――――くる。

 鼓動が大きく耳の中で反射する。私が息を呑んだのと、斎の後ろの茂みが激しく揺れたのとが同時だった。


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