女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 突然闇から人影が踊りだし、そのまま斎にぶつかった。

「うわあっ!?」

 バランスを崩して吹っ飛んで転がった斎は、それでもナイフを離さずに、顔を歪めてすぐに起き上がった。

 私は構えたままで、それを呆然と眺めていた。

 暗い境内に、ヤツとは違う別の低い声が聞こえる。

「――――――・・・彼女はバカじゃねえよ」

「・・・桑谷」

「桑谷さん!?」

 私服で、肩で息をした桑谷さんが斎を睨みつけてたっていた。じっとナイフに視線を固定させている。

 私も驚いたけど、斎のほうが動揺が激しかったらしい。

 私はその一瞬の隙を見逃さなかった。桑谷さんの登場には驚いたけれど、十分に緊張を解いて体の準備をさせていた私は、咄嗟に駆け寄って、狙いを定め、斎の頭めがけて足を蹴り上げた。

 鈍い音が響いて、確かな感触を足に感じる。

 斎がまた吹っ飛んだ。

 横から頭部への攻撃に、今度はナイフも手から離れる。

 私はそれを素早く拾って後ろに下がり、腰を屈めて体の前に構えた。


「――――――形成逆転だな」

 同じく構えた格好のままで、桑谷さんがヒュウと口笛を吹いた。


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