女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
どうやら私の回し蹴りは耳元に当たったらしく、また転がって耳を押さえて呻いた斎が、呻きながら立ち上がろうとしていた。
頭痛も耳鳴りもしているに違いない。一度強く頭を振った。
「・・・畜生っ・・・この・・・くそアマ!」
斎は立ち上がれず、膝を土について座っていた。そして私と桑谷さんを交互に睨みつける。ヤツの全身には土がつき、片手で耳を押さえているのが頼りない外灯の光で浮かび上がっている。
「・・・守口。もうバレてんだから、諦めろよ。お前の働いた詐欺の件で、今日警察にも連絡が行ってるぞ」
よく通るいつもの声で桑谷さんが静かに言うのを、片足を立てて座ったままの斎が鼻で笑った。
私はハッとする。警察に、連絡が?斎もそれを判ってたんだろうか。だから何としてでもというつもりで私を呼び出したのだろうか?
「・・・それでお前は、無関係ヅラして高みの見物かよ、桑谷」
斎がザラザラした声で桑谷さんに言う。
・・・無関係ヅラして高見の見物?何の話?
私は油断なくナイフを構えたままで、桑谷さんをチラリと見た。
捨て鉢になっているのではない、と判った。
斎は何かを知っている。
桑谷さんに関して話があると私に言ったのは、ただの釣り話ではなかったのかもしれない。何か―――――――