女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 目の前が、霞んだ。

 私は息を止めて震えを払い、お腹に力を込める。

 何があっても今だけは、ここを乗り切らないといけない。

 今や、敵は二人かもしれない。

 斎と、長髪の男。

 愛しく私を抱いてくれたのだ、と今の今まで私が誤解していたのかもしれない男―――――――


 私の動揺に気付いてか、斎が声を出して笑う。

「まさかだろう、まり!お前はそいつを信じてたのか?相変わらずのバカな女だよなあ!」

 裏返った声、絶叫のようなその笑い声は、神社の暗闇に吸い込まれて消えていった。

 私はぐらぐらと揺れる視界に吐き気を覚えた。ナイフを握る手から感覚がなくなっていく。ただ必死で呼吸をして、何とかそこに立っていた。

「・・・もう、いいな」

 桑谷さんの落ち着いた、よく通る声が聞こえた。

 そして携帯を開く音、それから声。

「限田神社で男が暴れてます。女性が襲われそうです、自分は今から助けに走ります」

 言うだけ言って、すぐに切ったようだった。

 斎は笑うのを止めて、ぽかんとした顔をしていた。マヌケな顔で桑谷さんを眺めている。

「・・・・」

 少しの静寂が辺りをつつむ。睨みあう3人の男女。そして、桑谷さんの低い声が聞こえた。

「何を言ってもお前には意味がないんだな。守口、そろそろ年貢の納め時だ」


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