女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
私は呆然と桑谷さんを見ながら掠れた小声で言った。
「・・・気安く・・・呼ばないで」
ハッと息をのんだようだった。一歩踏み出した状態のままで止まった男を見て、小さな声で聞いた。
「・・・斎と、飲んだって、何?」
「――――――」
「あなた達、そんなに仲がよかったのね。知らなかった・・・」
私は何も知らなかった。今だって、何が起きているのやら。大体どうしてここに彼が居るのだろう。
ひりひりとした痛みを胸に感じた。頭もガンガン痛んでいた。でもそんなことには気付かないふりで聞いた。
「目的があって私に近づいたの?」
彼はその場でじっと私を見ている。パニックを起こしているようには到底見えない冷静な感じだった。取り乱しているのは、何も知らない私だけらしい。
「・・・それは否定しない」
静かな声だった。悲しげにさえ、聞こえた。
その時、遠くから近づいてくるサイレン音が聞こえた。
二人で同時にそっちの方をみる。
そして私は口を開いた。自分でもなんて冷たい声だろうと思った。
「・・・あなたは逃げなくていいの?」