女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


「―――――え?」

 桑谷さんが私に顔を戻す。

 私は口元を歪ませて笑った。

「この男に襲われそうだったって、言うわよ、私」

 驚愕した顔で、桑谷さんが凍りついた。

 まさか自分がそう言われるとは思ってなかったようだった。

 目を見開いて固まっていたけど、サイレンが神社の階段下で消えたことにハッとして、早口でまくし立てた。

「今、全部説明は出来ない。だけど―――――――――だけど、俺は君の味方だ」

「はははは」

「やめてくれ、そんな風に・・・!後で必ず説明するから、俺にチャンスをくれないか」

 必死な感じが滑稽だった。

 何よ、そんな風に言っちゃって。もう・・・もう、ムカつくったら。

 私は微笑んだ。自動的に接客のスマイルが出た。恐るべし、百貨店の教育。


「―――――サヨウナラ、桑谷さん」


 背後に近づく複数の足音を気にして、固まっていた彼も走り出す。一瞬で、目の前から消えた。遠くの方で緑が揺れ動いた音がする。

 その音が聞こえなくなると同時くらいに、私は懐中電灯の灯に照らされた。

 眩しさに目を細める。


「―――――そこのあなた、ナイフを離しなさい」


 警察が、到着した。


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