女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
私は警官に顔を向ける。同じ年か、少し上くらいの男性で、無表情で私をじっと見ている。彼と視線を合わせ、私は簡潔に答えた。
元彼にここで襲われた、と。男性が一人助けに来てくれた時に犯人が落としたナイフを拾ったのだと。何もされていない、大丈夫だけど怖かった、と流れるように話した。
自分の名前、職業や住所を答える。機械的に話していて、声に抑揚がないから聞き取りにくかったらしく、何度も聞き返された。
斎が落として行った鞄の中から身分証明書が出てきたらしい。別の警官がそれを私に見せ、守口斎、この男に間違えないですか、と聞いた。
「・・・・さい、じゃないです。いつき、と読むんです」
ぼんやりと名前を訂正して、間違いない、と頷いた。斎は、警察に改めて手配された。刃物所持と暴行で。
事情聴取に時間がかかり、私が解放されたのは夜の11時だった。警官が送ってくれたので、私はアパートの自分の部屋に戻り、シャワーを頭から浴びて汗を流す。よく見てみれば、体のアチコチにアザがあったし、使い慣れない筋肉が悲鳴を上げだしているのが判った。
布団の上で、目を開けたまま横になっていた。
守口斎と桑谷彰人の顔が交互に出てきては、消えいく。
何が何だか判らなかった。
とにかくまた殺されかけたけど、私は無事だった、それだけが頭の中をぐるぐる回っていた。