女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
「説明させて欲しいんだ」
私はパタンと音をさせてパソコンを閉じた。背筋を真っ直ぐに伸ばして、じっと彼を見詰める。相当居心地が悪く感じるだろう視線を5分ほど浴びせたあと、ぼそっと返答した。
「・・・事後報告は、嫌いです」
「――――――」
「出逢ってから2ヶ月も時間はあった。その間、3回もあなたの腕で眠った。・・・今更、説明なんて」
桑谷さんは大きな手で瞼をこすっていた。はあー・・とため息。
私は淡々と続けて言う。
「・・・斎が昨日あんなことをしなきゃ、私に説明なんてする気はなかったんでしょう。『すべて、計画通り』だったんでしょう?」
彼は何かを耐えている顔をしていた。眉間に皺を寄せて、ぐっと口元を引き結んでいる。やがて手を降ろして、低い声で言った。
「勝手に自己完結するな」
私は挑発的に顎をあげ、さっき貰った言葉を返した。
「何とでも言え」
「―――――――」
唖然として口を開いた桑谷さんを無視して、私は売り場に近づきつつあるお客様に笑顔を見せた。
「いらっしゃいませ」
彼は仕方なく、視線で無言の圧力をかけて売り場から消えた。
「どうぞゆっくりご覧下さい。宜しければ試食もどうぞ」
私は明るい声と笑顔で接客をしながら心の中でため息をつく。これで、デパ地下には私と桑谷さんの噂が立つに違いない、と。