女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
午後になると、『ガリフ』の周囲は騒がしくなった。
まず営業が飛んできて、携帯で色んなところに電話しまくり、売り場の前でマネージャーや部長と話していた。どの人の顔も接客業についているとは思えないほど険しい顔だった。
そしてアルバイトの女の子が二人後からきて、今日はこのメンバーでやると決まったらしく、朝番の女の子は3時すぎにやっと休憩に出れたようだ。
私は他人の顔でそれを見ていた。
「大変ですねえ。どうしたんでしょうねえ」
そういってそわそわする隣の店の田中さんに相槌をうったりして。
原因を知っているは私だけなんだろう、今ここでは。
斎について警察から会社に連絡が行ったはずで、会社でも既に解雇扱いになっているんだろうし。
桑谷さんをずっと避けることは出来ないだろうけど、とにかく今は逃げようと、お昼は外で食べた。どうせ今日はお弁当を作ってきてなかった。
話なんか、聞きたくない。
今は、まだ。
だけど思っていた通り、彼の行動は素早く的確で、有無を言わさなかった。
敵に回したのが斎みたいな短絡的バカじゃなく、沈着冷静な桑谷さんだったなら私はとっくに死んでいるだろうと、仕事が終わったあと、店員通用口で待っている大きな人影を見て、ストレートでそう思えた。
・・・・・まあ、ここしか出入り口ないわけだし・・・。
近づいてくる桑谷さんを見ながら、私はため息をついた。