女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


「そうよ」

 簡単に答える。

 桑谷さんは押し殺したような声で言う。

「決意した復讐とやらはもう終わりにするってことか?」

「あのバカは警察に追われてる。それでもういいわ。後は知ったこっちゃないのよ」

「・・・それで、俺のことは?」

 私は目を見開いて、え?と首を傾げてみせた。あなたが、何?そんな感じで。

「どうでもいいわ」

 生ぬるい風が吹きぬけて二人の髪を揺らす。塵に混じって駅前の喧騒までもが飛んできていた。

「――――――・・・逃がすと思ってるのか?」

 ふ、と口元だけで笑って、彼は言った。その表情に一瞬ぞくりとする。この男は、きっと、有言実行タイプなんだろう。

 私は無意識に手を握り締めた。ようやく、危険な雰囲気を体が感じ始めたようだった。

「どうするつもり」

 私が小さく聞くと、彼は肩をすくめて宙を睨んだ。

「連れて帰って、布で手足を縛って転がしとくのもいいな。話をちゃんと聞くまでは」

「――――――変態野郎」

 桑谷さんが、また、ふ、と笑った。

「・・・出来ないと、思うのか?」


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