女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~

ビールと話と男と女。



 目を開けたまま、呆然と突っ立って、ぽろぽろと涙を落とした。

 桑谷さんが手を伸ばして、私の左手を引っ張った。

 そして一緒に歩き出す。

 濡れて霞んだ視界で、ぼんやりと前を歩く大きな背中を眺めた。


 ・・・・・・私、泣けたじゃん・・・・。



『どうしても―――――――君が欲しいから』


 貰った言葉が頭の中で回る。

 彼の表情に、空気に、発音に、小さな光が舞うのが見えた。




 桑谷さんは百貨店の近くの駐車場に車を停めていたらしい。

「・・・・・電車で出勤じゃないんですか・・・」

 鼻をすすりながら聞くと、ドアを開けて促しながら、彼は言った。

「どうしても君を捕まえるつもりだったから、足があったほうがいいかと思って。・・・でも出勤するとは思ってなかったんだ、本当は。君は休むだろうと思っていた」

 私を捕まえるために、車で通勤・・・行動派だ。やっぱり、この人から逃げるのは難しそうだ。


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