女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
寝不足が祟った上に緊張が取れて、私は眠ってしまった。
着いたぞって起こされて、一瞬何が何だか判らずにぽかんと彼を見上げる。でも彼の唇が切れて滲んでいるのを見て、パッと全部を思い出した。
そうだ、私が桑谷さんを引っぱたいたんだったって。それで、彼の家に連れてこられたんだ・・・。
彼は、商業ビルの一番上に住んでいた。
下はスナックやバー、小さい不動産なんかがごちゃごちゃと入っている狭いビルで、その一番上のフロアーに一人で住んでいた。
・・・・テナントビルに、人って住めるものなの?
案内されてエレベーターで上がっていく間、私は首を捻っていた。
飲み屋に連れてこられたのかと思った。でも俺の家って言ってたしな・・。
着いてみると、いかにも元事務所なだだっ広い一つの部屋だった。後で取り付けられたらしい簡易台所とトイレ、シャワールームがあって、後は大きなベッドと事務用の散らかったデスク、やたらと書類の詰まった本棚。片側一面に並んだ窓にはカーテンもブラインドもない。
床は板がむき出しだった。
「どこでも座って」
鍵をデスクに放り投げながら、桑谷さんが言った。
・・・・座るって・・・・そんな場所ないし。カーペットもなければ、椅子はデスクの前のやつ一脚だけ。少し考えて、恐らくダブルサイズのベッドに腰掛けた。