女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
「・・・・冬、寒そうな部屋ですね・・・」
ぽつりと感想を述べると、彼は面白そうな顔をして振り返った。
そして小さな冷蔵庫からコロナビールを出し、飲む?と聞く。
「頂きます」
とにかく、この部屋は暑い。タンクトップの上に羽織っていた夏用のカーディガンを脱いで鞄の上にのせた。
ビールの栓を抜いて、ライムを切って瓶口から突っ込み、渡してくれる。
「うるさいけど、我慢して」
そう断って窓を次々開けていき、桑谷さんは部屋の中に溜まった真夏の空気を入れ替えた。
途端に繁華街のパチンコと飲み屋の呼び込み、人の足音や笑い声の喧騒が入ってくる。
私はぐぐーっと一口ビールを呷って、ため息をついた。このやたらと暑い殺風景な部屋の中で、貰ったコロナビールだけが癒し所のように感じる。・・・ああ、美味しい。口の中に広がるキリリと冷えたライムの味をゆっくりと飲み込んだ。
桑谷さんは窓辺にもたれて、私を見ていた。喧騒に負けない声で口を開く。
「お腹空いてる?」
「・・・空いてますが、今はいいです」
「了解、じゃあ、話を始めよう。・・・何から言ったらいいか・・・」
唇に人差し指をあててしばらく考える彼をビールを飲みながら見ていた。
外から入るネオンの明かりに彼の黒髪が艶やかに光っている。
「―――――食品の責任者、小林部長は、俺の大学でのクラブの先輩なんだ」
暫くして、彼が顔を上げて話し出した。