女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 窓から入ってくる騒音よりも強く、彼の声は鼓膜を打つ。

 桑谷さんは時折ビールを飲みながら、ゆっくりと話した。


 小林部長は百貨店には転職で入った中途入社組で、元々は証券会社でえらく苦労をした人なんだ。

 大学のOB会で出会ってから、良くして貰っていた。

 俺が百貨店に入った時に付き合いが復活して今に至るんだけど、去年から、部長は守口を警戒していたんだ。初めて『ガリフ』に入ってきたときから、こいつはいつか大きなクレームを作る男になるかもしれないと思ったらしい。

 証券会社で色んな人間をみて、守口はちょっと危ないかもと思ったと言っていた。

 ただ、その時はやつは一メーカーの社員だったし、関係のない内はと放っておいたらしい。実際のところ、その頃出来たのは見張ることくらいだしな。

 まさかあんなに早く店長になるとは思ってなかったし、移動してきた自分の娘がヤツに夢中になるとは部長は夢にも思わなかっただろう。

 そこで、真剣に守口がどんな男か見極める必要が出来た。

 今度は職場の為でなく、娘を守る為に。

 2月のバレンタインが終わったころ、初めて部長から相談されたんだ。

「・・・・どうして桑谷さんに?」

 私はビールを飲み干して聞く。彼はお代わりを持ってきてくれて、そのまま窓を閉めに行き、壁にかけてあったリモコンを押してクーラーを入れた。


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