女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
「終電出ちゃいますよ、どうぞ行ってください」
私がそう言うと、桑谷さんは、微かな笑みを口元に浮かべて言った。
「・・・・お誘いを期待してたんだけどな。さっきの君の行動から読んで」
キスを狙っていた時の事を言ってるんだろうと判った。
私は肩をすくめた。
「・・・・自殺未遂を思い出したので、そんな気は消えました。あの話を無理強いしなければ、今頃あなたの腕枕だったでしょうけどね」
今晩は抱かれるわけにはいかない。私は大変消耗しているし、一人になって考える必要があった。
うう~と痛そうな顔で桑谷さんが呻く。ぐっと眉間に皺がよった。
「・・・・必要だったから、仕方ない。君がめげない危険な性格だと判ったしな。―――――4回も危険な目にあっても圧力をかけるのを止めないなんて」
「感心しました?」
「呆れたんだ。日本語で、君のような人間を向こう見ずと言う」
もしくは無鉄砲、と続ける桑谷さんに腕時計を指した。本当に、終電が終わる。
「―――――明日の電話には、必ず出ると約束してくれ」
真剣な目になって、彼が閉じかけたドアを掴んだ。
私はゆっくりと微笑んで頷いた。
まだ不安そうに見ていたけど、時間時間と私が言うと、最後には手を振って走って行った。