女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 私はドアを閉めて、部屋の中を見回す。

 今日聞いた色々な事実が頭の中を駆け巡って行った。

 睡眠薬を飲んだ夜。

 一人で戦って緊張した夜。

 昨日の夜と斎の笑い声。

 そして今日の桑谷さん。

 斎を疑っていた小林部長、その後輩だった桑谷さんの正体。

 警備会社と調査会社。

 彼は、私と斎をずっと見張っていた。


「・・・思いも寄らぬことって、世の中結構あるものなのね」

 私は窓辺によって、駅の方角をじっと見詰める。


 右手を見た。この手で殴った、彼の顔を思い出した。

 そして貰った言葉を。

 君が欲しいと言った、あのハッキリとした声を。


「・・・・ここに長く居すぎたみたい・・・」



 呟いた声は、一人きりの部屋に吸い込まれて消えていった。



< 239 / 274 >

この作品をシェア

pagetop