女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 新しい部屋は、何と勤務している百貨店がベランダから見える。

 駅前ではあるけど下町の、古い1DKのアパートだ。収益を気にする必要がないらしい金持ちの地主大家さんが、古いし長い間空いていたからと、家賃を5万円にしてくれたのだ。

 広さは前とほとんど同じで、家賃が月に1万4千円も浮いた。そして何よりも職場が近い。

 ほんとラッキーだったわ、私はそう喜んでほぼ即決だったのだ。

 3ヶ月前と同じようにダンボールに囲まれて、初日の夜を終える。物が詰め込まれた段ボールの隙間に布団を敷いて、窮屈な体勢で眠りについた。

 眠りに落ちる寸前、桑谷さんの顔が瞼に浮かぶ。

 彼は、私が消えてどう思うだろうか――――――――――



 翌日は快晴だった。起きてすぐに窓を全開にして、私は大きく伸びをする。


 繁忙期の終了後、全員貰える3連休が私の番で、今日から開始だ。

 こんなにバタバタと引っ越すつもりはなかった時に取った休みだったけど、結果的には一番タイミングが良かった。

 今日一日は部屋作りで消える予定。私はご飯もそこそこに、さっそく新しい家の大掃除から開始した。

 古いし内装は好きにしてくれても構わないと許可を取っていたので、埃を取って水吹拭きした後、壁にも天井にもペンキを塗り、床には絨毯を敷き詰めたりした。ホームセンターで手軽な道具を買い揃えていたけれど、やはりそれだけで一日目が終わる。

 ずっと上げっぱなしだった腕が痛んで、午後はうんうん唸っていた。

 小さな部屋だとはいえ、やはり一人では重労働だ。


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