女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
そして、3日目。
朝から晩まで働いた結果、2日間でほとんど片付いた部屋を満足げに眺める。
玄関から居間と台所がある部屋の壁は卵色、寝室に使う部屋の壁は緑色、天井は白くして、居間の床にはいぐさのラグを敷いた。
うーん、いい感じ。寝室は落ち着くし、居間や台所は明るい気持ちになれる。夏って感じの仕上がりだわ。冬になったらカーペットを暖色に切り替えて、ストーブを真ん中に置こう。
仕上がりに満足して腰に当てていた手で額の汗を拭いていたら、ジーンズの後ろのポケットに突っ込んでいた携帯の振動に気がついた。
売り場からの緊急の電話に備えるため、携帯はいつでも離さずに持って作業していた。
ディスプレイには知らない番号。
一瞬悩んだ後、結局放置した。
まだ番号の交換をしていないパートの大野さんかもとも思ったけど、そうだったら留守電に入るだろうからそれを聞いてから掛けなおせばいい。
桑谷さんからは2日目の昨日、計5回かかってきている電話を全部無視していて、本日はまだかかってきていない。
きっと彼は既に前の私の部屋にも行ってるはずだ。私が意思を持って消えたことは判ってるだろう。
この着信が彼である可能性は高い。
なんせ、彼はその方面のプロだったのだ。本気で私を見つけようとした時、一体どのような手を使ってくるやら―――――
手元の携帯は振動を止めて、留守番電話を表示している。
少なくとも、私に用がある人なんだな、と思った。