女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 ・・・・あらら、見付かっちゃった。

 私は心の中でそう呟いて立ち上がり、ぞうきんをバケツの中に放り投げる。

 そして振り返って桑谷さんを見詰め、微笑んで、口を開いた。

「思ったより、早かったわね」

 眉間に皺をよせ瞳を細めた彼は、明らかに怒っていた。

 唸り声のような音を一度立ててから、じいっと私を睨んでいる。それから目を閉じて、ため息をついて言った。

「・・・俺がキレかけている時に君が言う、軽口が好きだ」

 ・・・ああ、なるほど。今、キレかけている訳ね。それが面白くてちょっと苦笑してしまう。だけど怒鳴ったり、殴ったりはしないのか。

 黙って考えていると、彼が目を開いてじっと私を見た。

 私は微笑を浮かべて、ゆっくりと言った。

「・・・やりたいのは、キス、セックス、それとも拷問?」

 彼が一歩前に出て、私のすぐ目の前に立った。そして威嚇するように見下ろして、低い声で言う。

「・・・キスはなし。拷問のようなセックス、そして説教。―――――覚悟しろ」

 あははは。

 自分の胸の奥で、柔らかい感情が渦巻いているのが判った。これは――――――喜びだ。彼は私を見つけてくれて、ギリギリの自制心で自分を抑えている。

 なんて素敵な・・・なんて、優しい男。


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