女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
夕日が窓から入り込み、綺麗な布を吊るしてかけただけの窓べはまるで燃えるようだった。
それの光景をぼーっと見ていたら、彼の声が聞こえた。いつものよく通る声ではなく、小さな小さな声だった。
「・・・・俺の髪は願掛けだ」
胸から顔を起こして、彼を見上げた。
いきなり話し出した男はだらりと足を前に投げ出して座り、真っ直ぐに前の壁を見詰めていた。
「俺の家には因縁がある。3代遡って、ずっと男が早死にしている。曽祖父は32歳、祖父は34歳、父は33歳で皆自殺した」
一瞬、空気が止まったとかと思った。
――――――――自殺、した?
何の話かと思ってみれば、どうやら彼は以前私がした質問の答えをくれようとしているらしい。なぜ髪を伸ばしているんですか、と居酒屋で私が聞いた、あれだ。そう気がついて、私はなるべく話さないでおこうと決めた。
彼は私を見ていない。それは、心の防御を構築中だからなのだろう。
驚いたままの私をちらりと見て、また手で私の頭を撫でた。
「俺はもうずっと、親父達が死んだ歳が近づくことが怖かったんだ。強迫観念みたいにいきなり襲ってきて、怖くて不安で暴れだしたくなる時がある。・・・前の仕事、調査会社も警備会社も面白かった。夢中になって仕事していたけど、仕事に付随するスリルの影響か、どうせ俺も34歳までは生きられないんだからと、わざわざ危険に突っ込んでいくこともあった。・・・中毒みたいな状態に、28歳で耐え切れなくて百貨店に転職した」