女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
「右も左も判らない状態だろうから、今日はとにかく商品を覚えることを頑張ってね」
大野さんの言葉にはいと返事をする。販売員は初めての経験だから、先輩の言葉は何一つ聞き逃さないようにしなければ。緊張しているのに気がついて肩をぐるぐると回しておいた。午前中一杯は、こんな状態だろうと小さくため息をつく。
覚えることだらけの新人なのだ、仕方がない。
ちらりと、自分の売り場の斜め前に位置する斎が勤めるクッキーの専門店を眺めた。まだ誰もいないあの2ケースの売り場で、守口斎という名前の悪魔が働いているのだ。
今日は出勤するのだろうか。
教えて貰うことを持参したメモに書いていきながら、私は鼓動が高鳴るのを感じた。
この仕事になれたら―――――――
はい、と返事をしながらメモに書いていく。その間にも頭の中では冷静に斎にしてやりたいあれやこれやの計画が浮かんでいた。
―――――――復讐の、開始だ。
ゆっくりと、口元だけで微笑んだ。
午前中一杯かかって、説明漬けだった。
この業界のシフトや出入りの時間がまだ判らないが、昼の12時を過ぎても斎の姿は見かけなかったから、きっと今日は休みなのだろう。