女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
黙って聞いていた。
いきなりの告白に鼓動だけが耳の奥で響く。
桑谷さんの冷静な瞳や仕草の裏に、そんな恐怖が隠れていたとは。
彼は今まで、自分の中に流れる血の存在から懸命に逃げてきたのだと判った。
風が吹き込んでカーテン代わりの布をはためかせる。
彼の目は何も見ていないようだった。話す自分の声をぼんやりと聞いてるような顔をしていた。
「日常的なことを職業にすればマシになるかと。普通じゃないことではなくて、一般的な、消費生活を舞台にすればそんな考えもなくなるかと思ったんだ。・・・初めは、狙い通りマシになった。新しい退屈な仕事をやっていて、それに馴染んで行った」
「・・・でも?」
つい、声を出してしまった。だけど気にしてないのか聞こえてないのか、彼は淡々と続ける。
「・・・でも、30歳を過ぎたときから、また不安で震えるようになったんだ。どんどん近づいてくる、親父達が死を選んだ年齢が。夜中に目を覚ます。汗を全身にかいて震える。このままでは精神が壊れて、そのまま結局自殺に突っ込みそうだった。だから―――――すがるものが、必要だったんだ」
「・・・宗教とか?」