女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 彼が笑った。

 あははははって声を出して笑った。

 あの瞳も細めて、大きく口をあけている。

 キラキラと夕日に染まる新しい小さな部屋で、私たちは二人で笑っていた。

 それはとても希望の匂いがした。


 まだまだ話はあるけどとにかく、と、シャワーを浴びて外出の準備をして、買い物に出かけることにした。この家には食べ物がまだそんなにないのだ。

 最寄の小さなスーパーで食材を色々買い込み、また部屋に戻る。男手があるからとビールも沢山仕込んだ。

 やっとペンキの匂いも消えてきていて、私は換気扇をフル回転させて晩ご飯を作った。二人分。

 桑谷さんも一人暮らしが長くて家事は出来たので、隣でさっさと色んなものを作っていた。

「・・・器用ですね」

「一応、鮮魚では厨房にもいるからな。刃物の扱いは得意だぜ」

 ・・・・まあ、それは以前の特殊な仕事のお陰もあるんだろうけど。私は苦笑する。

 隣で料理をする男は始めてだ。

 その手際の良さに感心して、つい言った。

「おおー、素晴らしい!いつでも嫁にいけますよ、桑谷さん」

 すると彼はピタッと包丁を止めて、めげた様な口調で抗議をする。

「・・・嫁。俺、一応男だって自覚があるんだけど・・・」

 その返答に私はケラケラと笑い、テーブルの支度をする。


< 262 / 274 >

この作品をシェア

pagetop