女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
彼が笑った。
あははははって声を出して笑った。
あの瞳も細めて、大きく口をあけている。
キラキラと夕日に染まる新しい小さな部屋で、私たちは二人で笑っていた。
それはとても希望の匂いがした。
まだまだ話はあるけどとにかく、と、シャワーを浴びて外出の準備をして、買い物に出かけることにした。この家には食べ物がまだそんなにないのだ。
最寄の小さなスーパーで食材を色々買い込み、また部屋に戻る。男手があるからとビールも沢山仕込んだ。
やっとペンキの匂いも消えてきていて、私は換気扇をフル回転させて晩ご飯を作った。二人分。
桑谷さんも一人暮らしが長くて家事は出来たので、隣でさっさと色んなものを作っていた。
「・・・器用ですね」
「一応、鮮魚では厨房にもいるからな。刃物の扱いは得意だぜ」
・・・・まあ、それは以前の特殊な仕事のお陰もあるんだろうけど。私は苦笑する。
隣で料理をする男は始めてだ。
その手際の良さに感心して、つい言った。
「おおー、素晴らしい!いつでも嫁にいけますよ、桑谷さん」
すると彼はピタッと包丁を止めて、めげた様な口調で抗議をする。
「・・・嫁。俺、一応男だって自覚があるんだけど・・・」
その返答に私はケラケラと笑い、テーブルの支度をする。