女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
百貨店の最寄の駅前で昼食を済ませ、出勤した。
売り場に着くと、福田店長が目を細めて新しい髪形を褒めてくれた。茶髪もいいけれど、今の方が魅力的よって。そしてもう一人のパートさんの紹介を受けた。
「竹中でーす、宜しくお願いしまーす」
年は28歳です、と可愛い笑顔で言った彼女にはもう子供が二人もいるらしい。結婚が早くて、専業主婦から社会復帰して2年目でーすと明るく喋っていた。その話を聞いたりしていて、まだお客さんの少ない昼下がり、和やかに盛り上がった。
ふと、竹中さんが視線を固定したのに気付く。何となく頬が赤くなっている。なんだろうと振り返って、そこに斎の姿を発見した。
「あ」
私がつい零した声は小さくて、誰にも聞かれなかったらしい。
クッキー専門店の『ガリフ』のカウンターの中に立ち、男性販売員の制服である白衣を着て黒い帽子を粋に被った斎は、相変わらずの端整な外見で目立っていた。
売り上げのノートか何かを見ているらしい。涼しげな目元は真剣な表情で、それを見て、竹中さんは反応したようだった。
通路を挟んで斜め前の売り場で、声は聞こえていないようだが人の気配と視線を感じたのだろう、ノートから顔を上げて、斎がチラリとこちらを見た。
視線が空中で絡み合う。
私は急速に緊張したけど、スカートの後ろでこぶしを握り締めて動揺を隠した。
斎がハッとした顔をした。目を見開いてこっちをみている。
―――――――悪魔と対峙だ。負けちゃいけない。ここが、勝負。