女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
えー!守口さんの元カノですかー!?と声を上げる竹中さんの声でハッとしたらしく、斎が笑顔を作った。それは完全に余所行きの笑顔で、綺麗ではあったけれど固い印象が残っている。
「あらあら!それは偶然ねえ~」
福田店長も面白そうな顔をして、私と斎を交互に見ていた。
「・・・・久しぶり、小川さん」
斎が幾分抑えた声でそう言った。
久しぶりに聞いたこの男の声。私は反応して大きな音を立てた心臓を、懸命に無視した。
「どうぞ宜しくお願いいたします」
頭を下げた私を冷たい目で見て、こちらこそ、とヤツは呟く。それから福田店長と竹中さんに会釈をして売り場に戻っていった。
隣近所の売り場の女の人が、皆興味津々な顔つきで盗み見ているのが判った。
福田店長と竹中さんも私をじっと見ている。
イケメンの守口店長の元カノが洋菓子売り場に来たと、きっと今日中にはデパ地下に広がるだろう。おば様達のゴシップ伝達スピードは重々承知している。これで今現在、斎と付き合っている人がいれば自ずと情報が伝わるだろうし、彼女が居なければ堂々と斎のあくどい情報を流せる。
口端を持ち上げて笑った。もう既に、冷や汗や震えは消えてしまっていた。
ファーストコンタクトと種まき、完了。