女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
ストック場の攻防。
狙い通り、守口店長の元カノが洋菓子に入ったらしいとの噂は凄いスピードで蔓延し、それから3日後には色んな売り場の販売員が、通りすがりに顔を見たり、直接私に話しかけたりしてきた。
女性の好奇心とお喋りを侮ってはいけない。それは今までのどの職場にいても身に沁みて体感してきたことなのだ。だから、それを利用することにしたってわけ。
私は当たり障りなく笑顔と共に話をしたけれど、少しずつ、斎の印象を悪くするような言葉を入れていくのを忘れなかった。
例えば、待ち合わせには必ず遅れる、その理由は寝坊であって、大切な人をも普通に待たせることの出来る男なのだ、要するに自己管理が甘いのよね、とかそういうこと。
先に、ヤツの評価を下げる言葉を。それから最後には必ず優しいフォローを入れる。「きっと連勤でお疲れだったのだとは思うけど」、とか「今付き合ってる人には違うでしょうけど」など。
そんな言葉の操作をして4日目、休憩時間に一緒にお昼を食べていた隣の店のパートの子から、情報を手に入れたのだ。
「そういえば、守口さんて、今、小林部長の娘さんと付き合ってるらしいですよ~」
友川さんという私より二つ下のフリーターである彼女は、菓子パンにインスタントラーメンという手軽な昼食をかきこみながら言った。
それまでの包装やラッピングの仕方という話題からいきなり飛んだので、私は一瞬話についていけずに止まってしまった。
「え?」
「だから、守口さん。小川さん、もう全然気はないんですか~?元カノだったら略奪も可能かも、ですよ~」