女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
医者はひらりと片手を顔の前で振って、諦めた顔でカルテに何か書き込んだ。
「・・・・昼までには処理が終わりますので、部屋で待っていてください」
私ははいと返事をして立ち上がる。
「お世話になりました」
医者はもう、私のほうを見なかった。頭を下げて部屋を出る。自分の病室に向かった。
起きれるようになってから病院のコンビニで少しずつ買った日用品を鞄に詰める。後はすることもなく、ベッドに腰掛けたまま看護師がくるのをぼんやりまっていた。
窓口で会計を済ませて病院を出る。
ほぼ4日ぶりに外の世界に帰ってきたわけだ。
緑が眩しい外の世界は5月で、爽やかな風が吹いている。足を止めて、ぐるりと市民病院の周りを見回した。
私を残して世界は今日もちゃんと呼吸をして続いていた。あのまま死んでいたとしても、きっとそのまま続いていくんだよね、世界は。私が生きようが、死のうが。
それは実に小さな出来事で、他のものには一切の影響を与えない――――――――
小さな鞄を持って佇んでいたら、タクシーから運転手が降りてきて声をかけた。
「乗りますか?」
私は笑って手を降る。久しぶりに笑顔を作ったから頬のところが引きつった。
「いえ、歩きますから」