女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
さっき会計を済ませる時、保険を使っても結構な金額だった。足りない分をと病院内のATMにお金をおろしに行ったら、私の口座残高が見事に消えていた。思わず待合室に座って激しくなった動悸を抑えるのに苦労したのだ。その後で何とか会計は済ませたけど、家までタクシーで帰る贅沢なんて出来ない身分になってしまった。
一瞬で判った。
あの男が持っていったんだ。
私のお金までも。
怒りはわかず、ただ淡々とそう思った。薬の飲みすぎで倒れた私を救急車に突っ込み、そのまま銀行で私のお金を下ろしたんだろう。通帳や印鑑がある場所は彼は当然判っているはずだ。
それくらいには長く付き合っていた。
それくらいには信用していた。
あーあ・・・・。その結果が、これだよ。
棄てられて、お金まで盗られた。なあーにが信用よ、バカな私。あの端整な、綺麗な顔で、虫一匹だって殺せませんて清純な表情で、いとも簡単にあの男は私の日常を壊した。
4日ぶりに家に戻ると、私が倒れた時のままの部屋だった。
散らばった新聞紙、床には私の吐瀉物。食べかけのご飯、電気もつけっぱなし。とりあえずと真っ直ぐに通帳などが仕舞ってある引き出しへ向かい、通帳も印鑑も揃っていることを確認した。
やっぱり返しにきたんだな。あのバカ野郎。
光の点滅で、ベッドに放り出したままだったケータイ電話に気付く。いくつも入っていた留守電を聞くと、無断欠勤が3日以上で解雇ですと派遣会社の担当者からの怒った声だった。