女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 パソコンだってどこの会社に行っても事務でなら困らないくらいには出来るし、受付嬢のお陰で接客や化粧の技術を身に付けた。声の出し方や、歩き方も。

 秘書検定ももっているし、電話の受け答えくらいであれば英語でも大丈夫。

 それに加えてこの仕事で、熨斗の常識や包装の技術まで手に入れたのだ。仕事には困らないように、研鑽をつまなくてはならない。独身の一人暮らし、いつでも仕事が見付かるように自分を鍛えておかねば。

 自分の魅せ方を教えてくれたのは本当にラッキーだったと思う。たいして綺麗でも可愛くもないが、人の目を惹くような顔立ちにすることだって出来るのだ。

 普段販売員でいる時には化粧も控えめで、清潔さが第一に求められるが、今晩はパーティーなのだ。多少派手なメイクでも問題あるまい。

 マスカラだけだった目元にアイラインをいれ、チークを一刷け塗る。それだけで、女の人はぐっと華やかになる。

「よし」

 出来栄えに満足して頷き、トイレを出た。

 待ち合わせの場所前にあるソファーに座って本を取り出す。ゆったりとした気持ちで読み出した。


 1時間後、お待たせ~と明るい声をあげて福田店長が登場した。お疲れ様です、と挨拶すると、いやあねえ~疲れてないわよ、今日は!とこれまた明るい返事が来て笑えた。

 外から回って、また販売員証明書をだして店員入口から入る。

 本日の売り上げやら面白かったお客さんやらの話をしながら一番上の食堂まで上がっていった。


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