女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
横目で斎を見ながら、ビールのお代わりを注ぎにキッチンカウンターに近づくと、隣に立った背の高い男の人が、あーあ、と呟くのが聞こえた。
「・・・・飯、もうねーじゃん」
ガッカリした声だった。低い声がするりと耳の中へ入ってくる。
私はビールのお代わりを待っている間に、こっそりと彼を盗み見る。
この人・・・知ってるなあ。どっかで見た。
まだ制服から着替えておらず、黒いシャツの上に緑色の防水エプロンをしていた。
その制服は百貨店の地下のマーケットで働く百貨店側の社員さんの制服だから、売り場も近いしよく目にするんだろう。
黒髪で、肩までの長髪を後ろでくくっている。いい体格、腕まくりして壁にもたれるその外見は確かによく見る―――――――・・・
あ、思い出した。
鮮魚売り場の人だ。百貨店のスーパーであるマーケットの魚のコーナーで何回か見かけたな。
高い背に、長髪が珍しくて目立つんだ、この人。地下の人間が必ず被らなければならない帽子がないから、すぐには判らなかったけど。
ビールのお代わりを持って自分のテーブルに戻ると、3人いた店長の一人は帰ったらしく居なくなっていた。
残っているご飯を見て思いつき、もう食べませんか?と二人に聞くと要らないと言われたので、腕に抱えてキッチンカウンターまで戻った。