女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
はっとして斎の隣をみると、背の低い、可愛らしい女の人が見えた。
・・・・この人が、小林部長の娘さんね。心の中で呟いた。確かに、目元や額の形なんかが部長と似ている。
あたしは微笑みを浮かべて斎に会釈をした。
「あら、斎。お疲れ様」
彼女が目を丸くした。と同時に斎の目に苛立たしげな光が浮かんだ。
敢えて下の名前で呼んだのだ。あとでじっくり彼女に言い訳すればいい。言って見れば仕事終わりのプライベートな時間ではあるんだし、こんなことで気を遣ってやらないっつーの。
「ご飯はちゃんと食べた?あなたよく食べるんだから、しっかり確保しないとね」
わざと慣れ慣れしい口をきく。ますます不機嫌になる斎を見て笑い出しそうになった。隣の彼女は居心地が悪そうだ。
よしよし、これくらいでいいわ。何も言わずに突っ立つ斎を見て私は大いに満足する。
もう一度斎に微笑んでから彼女は無視し、するりと逃げ出した。
自分のテーブルに戻ると福田店長はすっかり酔っ払っていたので、もう帰りましょうか、と声をかける。
アイツとその標的を確認する、という目的は達成したし(ついでに威嚇までしたし)、タダでお腹いっぱいにご飯も食べた。もうここに居る必要はないのだ。
はあーい、と笑いながら立つ店長を支える。
「明日朝番ですよ、大丈夫ですかー?」
「だあいじょうぶよおお~、もう20年もやってるんだからあ~」
「帰ったらお水一杯飲んでくださいね!」
「はいは~い」
ケラケラと機嫌よく笑う店長と駅で別れて、私は足取りも軽く電車に乗った。
首尾、上々。