女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
第3章 誘惑。

バックヤードの危険・階段



 パーティーから2日目、早番で出勤した私は売り場に向かうためバックヤードの階段を降りていた。

 駅から直結の2階に従業員の入口があり、3階にロッカールーム、そして勤務するのは地下一階の食品売り場である私達は、毎朝階段をうろうろするハメになる。エレベーターの使用は節電の為に一応禁止となっているし、一々到着を待つのも面倒くさい。というわけで、私は今日も階段をトントンと降りていた。

 数ある階段で私がよく使用するのは一番北側にある階段だった。

 ここは売り場への入口に遠いので、あまり使う人がいない。それを利用して、食堂が一杯の時なんかはこの階段で休憩したりしていた。

 今日は納品もないし、そんなに急ぐことはないのだが、開店前に配送を何点か作っておきたいといつもと同じ時間に出勤していたのだ。開店したら忙しくてそんな暇はないかもしれないし。

 足音を立てて3階から2階まで降りる。踊り場でくるりと反転しようと思ったら、突然影から人が出てきて抱きかかえられた。

「っ・・・!!!」

 驚いて体を強張らせる私を抱きかかえた人物が、そのまま強引に顔を近づけてキスをした。

 驚いて固まる私の手からは私物鞄が落ち、そのまま階段を数段落ちていく。その音だけを呆然と聞いていた。実際のところ、いきなりすぎて何が起きたのかよく判っていなかったのだ。

 誰だか判らない相手はきつく私の腰を抱いている。ちょっとやそっと力をいれたくらいじゃびくともしない感じだった。


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