女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
「・・・・」
「時間は仕方ないわね、どうやっても返せないもの。もう27歳には戻れない。でもお金は返して貰わないと」
「・・・・金なんてしらねー」
自由な両手を胸の前で組んだ。そうでもしないと、すぐにこのバカ野郎を殴ってしまいそうだったからだ。
「私が入院中に通帳と印鑑を持ち出してしかも返せたのはあんただけなのよ」
「しらねーって」
ああ、イライラする。私は舌打をした。誰か、包丁を頂戴。そしたら遠慮なく、目の前の男を切り刻んでやるのに。
「あらそう?銀行の防犯カメラ見せてもらおうか?あんたのことだからきっと変装すらしないで窓口に行ったんでしょう。その目立つ容姿のお陰で銀行員が覚えてくれてるかもしれないわね、写真を持って一緒に銀行に行きましょうか」
ヤツが下を向いた。バレバレだ、その態度で。犯罪するには気の小さい野郎ってことなのよね。私はどんどん体を固める元カレを観察しながら、更に言葉を繋いだ。
「・・・それとも警察に届出ようか。あんたじゃないんだったら、空き巣に入られたってことだものねえ」
暗がりになって下を向いていたから、斎の表情は全然見えなかった。それでもこたえているのは判った。体の横で握り締めている手が震えていたから。
「・・・・もう、ない」
「え?」
小さな声が聞こえて、私は壁から体を離す。