女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 返してくれたら目の前から消えてやる、というのは嘘だ。

 それだけではまだ足りない。

 あの男を社会的に抹殺するまでは、私の気は済みそうにない。

 階段でのキスを思い出すと吐き気がしてくる。認めたくはないが、別に斎は本当にキスが下手なわけではない。ただ、私を感じさせることは出来ないってだけで。

 私は完全に、あの男から心が離れている。

 パソコンの画面を凝視したままで、小さく首を振った。

 いやいや、もう忘れよう。血が出るまで噛み付いたし、これであれに関してはお相子だろうと。

 それよりも・・・・。

 取られたお金を返して貰ったら、それをどうするか考えてるほうが楽しいに決まってる。

 暇な売り場を持て余して、私はそんなことばかりぼーっと考えていたのだ。

 危険が迫っているとは、全く気がつかなかった。



 それは、また、階段だった。


 一番よく使っている、北の階段。

 一日に二回ある休憩時間の二回目の時。


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