女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
私はバックヤードの従業員トイレから出て、4階から階段を使って降りていた。踊り場の暗がりをみては斎に襲われたことを思い出して気分を悪くしたりして。
全く、あれは気持ち悪かった。
また思い出してうんざりしたその時、私物鞄に入れた携帯の振動を感じて、階段途中で立ち止まる。鞄の中に手を突っ込んで携帯を取り出し、開けた時だった。
突然強い衝撃を背中に感じ、バランスを崩した私は空中に体が放り出される。
・・・あ。
背中を、押された。
頭でそう理解して、落ちていきながら体を捻る。振り向きざま階段の上を視界が捉える。逃げていく白衣の後姿を視線の端に確認しながら、空中の、手すりがあるだろうところへ向かって手を伸ばす。
届かない・・・!
その全部が2秒くらいの間だったと思う。
背中を押された時、足が勝手に前に出たので落ち始めて2段くらいは踏めたけど、その後がダメだった。一直線に踊り場まで転がり落ちるんだな、と覚悟して目をつぶると、今度は全身に違う衝撃があって、体が止まった。
「・・・・へ・・・」
大きな手に肩と腰を支えられて、私の体は階段の途中で止まっていた。
中途半端なその体勢のままでパッと後ろに顔を上げると、私を助けてくれた人物は階段の上を見ている。