女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
「・・・あ・・・すみません、ありが――――」
もつれた体を動かしてどうにか起き上がろうと頑張りながら声をだすと、遮られた。
「今の」
「は?」
「守口か?『ガリフ』の」
・・・・ええ、私もそう思いました。思ったけれど口に出さずに、今度こそと階段の手すりを掴んで自力で立ち上がった。
「・・・あ、危なかった・・・」
小さな声で呟いて、手すりに全身を預けて息をゆっくりと吐く。
今更ながら心臓がドキドキしてきた。全身に、ぶわあ~っと汗が噴出す。落ち着け落ち着け、大丈夫よ、まり。
大丈夫、だった、けど・・・・私・・・背中、押された、よね?
「大丈夫?」
低い男性の声。それが耳の中に響いて、私はハッとする。
ようやく階段の出入り口から目を離してこちらに向き直った人に、その場で慌てて頭を下げた。
「あ・・ありがとうございました。助かりました」
「あ、串カツ」
「はい?」
パッと顔を上げると、長髪を後ろでくくった男が微笑んでいた。