女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 ・・・ああ、あのパーティーで、余ったご飯を渡した人か。えーと、鮮魚売り場の・・・・。胸元につけている名札に目を凝らす。・・・桑谷、さん。

「――――――あ、ええと・・・。その節は、どうも」

 よく判らない挨拶をして、とりあえずと私はもう一度頭を下げておいた。

 それにしても、串カツって・・・。

 まだ心臓は早打ちしていたけど、思わず気が抜けて私は笑ってしまう。

「あいつ、押したのか、もしかして?走るとこはみたけど」

 桑谷という名前らしい男がまた出入り口のほうをみた。私は深呼吸をして、足が震えてないことを確認する。

 私物鞄は階段の下まで落ちてしまっていた。

「・・・・まさか、そんなことはないと思いますが」

 静かに言った。


 桑谷さんは眉間に皺を寄せてこちらを見た。うわあお、迫力満点の顔。怒ったら怖そうな男だなあ、と冷静に考える。私がじいっと彼を見ていると、眉間に皺を寄せたままでボソッと呟く。

「・・・自分で落ちたにしちゃ勢いありすぎだろ」

 曖昧に微笑んで答えない。答えれるわけがない。さっきのは、確実に絶対悪意を持って私の背中は押されたのだ。

 そして地球上で、そんなことをしそうな男、する理由がある男は斎しかいない。


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