女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
あの野郎。金を返すとか言って油断させて、突き落とすなんて・・・。
だけどそれは、この人には関係のない話だ。誰かを巻き込みたいわけではないし、実際のところ詮索されるのは鬱陶しい。
「休憩終わりますので、行きます。本当にありがとうございました」
もう一度頭を下げて私物鞄を取りに降りようとすると、あ、と声が聞こえた。
振り返って仰ぎ見る。
長身長髪の体格のいい男は制服のポケットに両手を突っ込んで、口を開いた。黒い瞳が真っ直ぐに私を見ている。
「・・・名前は?」
名乗る必要があるんだろうかとふと思ったが、恩人にすげなくは出来ない。大して愛想もよくない声で、私は応える。
「小川です」
言うだけ言って、落ちていた携帯を拾い、私は階段を降りて行った。
急ぎ足でバックヤードを移動する。そうしていなきゃ、何かにヤツ当たりしそうだったからだ。
――――――・・・桑谷さんが通りかかってなきゃ―――――
「私、死んでたわ」
声に出して言ってみて、ぞっとした。
・・・ようやく生き返ったばかりだってーのに。冗談じゃねーよ。
アイツの中では今や私はゆすり女になってしまったのだろう。懐柔策も効かなかったし、これは消えて貰うしかないって思ったわけ?