女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~



・・・マジで。それって単純すぎない?

 大怪我をさせたら怖くなって逃げるだろう、なんて考えたんだろうか。睡眠薬に関しては、ヤツが直接手を下したことではないわけだし。

 ・・・でも。

 手をだしたなあああああーっ!!

 ムカついた。本気でムカついた。このまま警察に行ってもよいが、これまた結局証拠はない。バックヤードの階段には防犯カメラなどないし、他には誰もいなかった。桑谷さんは見ていたかもしれないが、多分守口、程度の確信しかないだろう。ということは、自分の不注意で終わってしまう話だ。

 警察には行けない、嫌なら仕事を辞めて逃げるか、怯えて暮らすかと考えたんだろうか。

 店員通用口で一礼して売り場まで歩いていく。

 斜め前の売り場では斎がいつものように働いていた。ふと顔を上げたやつと目があった時、微かに苦笑したのを見逃さなかった。・・・なんだ、無事だったのか、って思ってるのかしら。

 私は大きく笑顔を作って会釈する。体の底で、ふつふつと怒りの炎が燃え上がっているのを感じていた。

 無事だったんだよ、バーカ。私はお前なんかに絶対負けない。

 これからは北階段は使わないこと、背後に十分注意すること、と自分に言い聞かせる。

 そして斎には益々圧力を掛けてやる。

 私は一度死んだも同然。

 てめーなんかに・・・・


 売り場に入りカウンターの前に立って、笑顔を貼り付ける。


 ・・・・・もう一度殺されたりなんか、しないんだから。



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